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2021年3月1日

住職の言いたい放題㊽「人生100年時代 当来?」

こんにちは。住職の斉藤隆雄です。
 
「人生100年時代」という言葉をよく耳にします。人生100年ならば、20歳で働き始め、40年間働いて60歳で退職するということは、残りの人生40年の折り返し地点です。60歳はまだまだ元気。働く意欲も十分。定年を廃止して働いた方が健康に良い。

健康なら医療や介護も不要。年金も受け取るのではなく将来のために支払う。そうなれば医療費や年金財政が好転する。100歳まで元気に生きて、最後はピンピンコロリ。そんな夢のような未来が語られます。

しかし2019年では、65歳以上の高齢化率が約28%ですが、2050年には約38%になります。現在でも老老介護が実態です。将来は想像以上に厳しい現実が待ち受けているのではないでしょうか。

「人生100年時代」という言葉に胡散臭さを感じます。

森鴎外は大正5年、小説「高瀬舟」で安楽死を題材にしました。幼い時に両親を亡くした兄弟が苦労をしながらも助け合って成長します。とても仲の良い兄弟ですが、弟が不治の病気になり、心身共に苦しみます。自分が早く死んで兄に楽をさせたいと、弟は剃刀で喉を切り自殺を図ります。

仕事から帰った兄が血だらけで倒れている弟を見つけます。死にきれない弟は、苦しみから喉に刺さったままの剃刀を抜いて、死なせて楽にしてほしいと頼みます。兄は弟の苦しみを救うため静かに喉から剃刀を抜き去ります。弟は更に出血して亡くなります。近所の人の通報で兄は有罪になり流罪になります。護送中の高瀬舟の中で、兄はとても晴れやかで後光がさしていた。という短編小説です。

「高瀬舟」から100年以上経っても安楽死や尊厳死の議論は進んでいません。それぞれが望む死生観を家族や介護者が尊重して柔軟に対応できる社会になるように医学界、法曹界、宗教界が一体となって議論を始めてほしいと思います。