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2016年4月26日

住職の言いたい放題⑤「報復しない」

こんにちは。住職の斉藤隆雄です。
 前回の「仏の顔も三度」の結論として仏教は「非戦」ですよと申し上げました。もう少し具体的に言えば、戦争はしない。更には報復もしない。というのが仏教です。「報復」という言葉から、私は浄土宗の宗祖法然上人の父上、漆間時国公の遺言を思い出しました。実は地方武士の漆間時国公は『仇討ちをするな』と遺言をされたのです。法然上人が数えで九歳の時、夜討ちにより、父時国公が亡くなります。その時の最後の言葉は『このようなことが起きたのも、前世からの因縁によるものだ。敵を怨んではならない。お前が仇討ちをすれば、相手も同様に仇討ちをするであろう。その恨みは何世代にわたってもつきがたいであろう。お前は決して仇討ちをしてはならない。この先自分は苦しみの世界を流転する宿命だから、お前は仏門に入って、来世で苦しんでいる私や多くの人々が救われる道を探してもらいたい』
 この遺言から34年間、求道の道を歩んだ法然上人はついに43歳の春、お念仏のみ教えと出会い、浄土宗が開宗されます。父の『報復するな』という遺言が、お念仏のみ教えを導き、多くの人々が極楽浄土に救われ、850年以上経過した現在、私もそのお念仏のみ教えをいただき、お取次ぎをさせていただいております。
 もし父上が『仇討ちをして恨みを晴らしてくれ』と遺言されたら、法然上人も戦で命を失い、もちろん浄土宗も存在せず、お念仏のみ教えも流布せず…何と恐ろしいことでしょう。
近年でもこのような「報復をしない」事例がありました。
昭和26年9月6日サンフランシスコ講和条約においてセイロン大蔵大臣(後にスリランカ大統領)J.R.ジャワルナデ氏が日本に対して報復をせず、一切の損害賠償を放棄する演説をされました。その演説のなかでジャワルナデ氏はお釈迦様のお言葉を引用しました。『人はただ愛によってのみ憎しみを越えられる。人は憎しみによっては憎しみを越えられない。実にこの世においては怨みに報いるに怨みを以てしたならば、ついに怨みの息(や)むことがない。怨みをすててこそ息む、これは永遠の真理である。』
このスピーチが、当時日本に厳しい制裁措置を加えようとしていた諸外国代表の心を打ち、日本の国際復帰への道につながったといわれています。本条約締結後、世界で一番早く正式に日本と外交関係を結んだのもスリランカでした。
今年の2月(平成28年2月)スリランカに行ってきました。二千年以上前の仏教遺跡が驚くほど美しく保存されています。多くの仏跡で手を合わせ、感動の連続でした。旅の最後日は大都市コロンボを散策しました。市内の大きな公園に面して、ジャワルナデ元大統領の住居があります。現在は博物館として多くの記念品が展示されています。その中にサンフランシスコ講和条約の原稿があり、思わず目頭が熱くなりました。